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企業研究物語: ⑧得るものと捨てるもの

      2014/12/29

「そうでしょう。そうでしょう。」

 

安室は言わんこっちゃないといった風に両手を胸の前で組みながら、うんうんとうなづく。

 

「給料自体は生活していく上で必ず必要な事だけど、自分がいくらで満足するかは、人それぞれで異なっているものよ。年収1千万でなければ満足しない人もいるし、年収300万円でも満たされる人もいるわよね。つまり、どんな仕事でもいいから、給料が高くて安定している仕事に就きたいという人もいれば、例え周りより給料が低くても、自分が本当に好きな仕事をしていたいと思う人もいるじゃない?」

 

「そうですね〜、あのバイトの様な経験をする位だったら、僕は給料が安くてもいいかも」

 

さっきの嫌な記憶がまだ、頭から離れない。居酒屋バイトは一種のトラウマになっている。

 

「何も、給料が高い イコール きつい仕事というわけではないわ。きちんとした技術や能力を評価されて、高い給料をもらっている人もたくさんいるわ。ただ、ここでは給料の高さを他の項目と比べて、どれほど重視しているかを決めて欲しいのよ。」

 

「つまり、先程の表の中で、どの項目を重視するのかを項目毎に1〜5点、合計13点になるよう点数をつけてもらいたいのよ。例えば、給料の高さと経済的安定性が一番大事という場合は、給料の高さと経済的安定性への欲求に5点をつけ、残りの3項目は1点ずつにする、逆に自分の好きな仕事を、自分の裁量権で行う事を何よりも重視するという場合は、裁量権の大きさと好きな仕事への欲求を5点にして、残りの3項目は1点ずつにするといった具合よ。この表を埋めることで、あなたが会社に何を求めているかをはっきりさせる事ができるのよ。わたしは、この表を『欲望分析表』略して『ヨクブー』と呼ぶことにしてるのよ。」

 

「僕は『ヨクブー』の項目全部に5点をつけたいのです。13点じゃ足りません」

 

「欲張りはダメ!全部に5点をつけると、結局、自分が本当は何を重視しているかを、理解できていないことになるわ。何かを選ぶことは何かを捨てる事でもあるのよ。自分が何を捨てられるのかを決める立場になって始めて、自分が就職先に何を重視しているかが理解できる様になるの。だから、持ち点の合計点は絶対13点。これは必ず守ってもらうわ。」

 

先程までのふざけた雰囲気とは一転、真面目に講義を行う安室に強めの口調で言われ、僕は少し落ち込んだ。

 

そんな様子を気にするでもなく、安室は続ける。

 

「いい?就職活動では、ほとんどの人が自分がやりたい仕事ができる会社を希望しているつもりでも、結果的に経済的に安定した大企業に惹かれてしまうものよ。そういった会社を選ぶということは、若いうちから大きな仕事を与えられる裁量権とか、自分の好きな仕事ができるまで時間がかかるといったマイナス要因は忘れがちでしょ。逆に、自分が好きな仕事を若いうちから裁量権を持って取り組ませてくれる会社を選ぶと、どうしても中小企業やベンチャーが多くなってしまう。そうすると、給料面や経済的安定性では大企業に劣ってしまう。その事をしっかり理解した上でこの表(ヨクブー)に点数をつけていってもらいたいの。」

 

安室の話に耳を傾けつつ、僕はヨクブーの点数配分を頭の中で考え始めていた。

 

「あと、自分の点数がつけ終わったら、知り合いにも同じ様に点数をつけてもらって、次回以降の講義につれてきて欲しいのよ。それじゃ、お願いね。」

 

安室は笑顔でそう言い残して、荷物をまとめてそそくさと帰っていった。

こうして何かと脱線しながらも、長かった1回目の講義が終了した。

 

安室が帰った後、僕は早速『ヨクブー』の点数をつける作業に取り組んだ。自分が就職先の企業に本当に求めているのはどの項目なのか。好きな仕事ができる環境を求めているのか、それとも就職先に安定と高い給料を求めているのか。はっきりいって、どちらも求めているからすぐには決められない。カレーもナポリタンも両方好きだし、同級生の美奈子ちゃんも加奈子ちゃんも両方好きだった。ただ、安室はどちらかに決めろといっていた。持ち点は13点しかない。

 

自分の好きな仕事が何もないのであれば特に悩む事もない。安定していて給料が高い企業を選べばそれでいいのだ。

 

でも、僕の心の奥にはかすかなひっかかりがあった。小さい頃から文房具が大好きで、大学に入ってからも文房具屋を巡っては、珍しい物や機能的にすぐれた文房具を探して周っていたのだ。文房具評論家になりたいと夢見たこともあったけど、恥ずかしすぎて、友達や親にも言っていない。地味すぎるし、暗すぎる。

 

昨年の就職活動ではあえて、文房具を取り扱っている企業に応募するのを避け、就職人気の高い有名企業ばかりを受けた。その結果、内定ゼロに終わってしまった。今年はどうするのが正解なのか。たった5つの項目ではあったが、ヨクブーに点数をつけることがこんなに難しいこととは思わなかった。

 - 企業研究物語

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